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片頭痛

片頭痛は代表的な一次性頭痛

脳そのものに疾患があったり、他の疾患が原因となって起こる二次頭痛と異なり、頭痛そのものが病気である頭痛を一次性頭痛と呼びます。
一時性頭痛の代表は「片頭痛」、「緊張型頭痛」、「群発頭痛」です。このうち頻度が多いのが「片頭痛」と「緊張型頭痛」もしくは「片頭痛+緊張型頭痛」ですが、強い頭痛を訴える方の頭痛には「片頭痛」の要素が含まれていることが多いです。

片頭痛?偏頭痛?どちらが正解?

「へんずつう」を変換すると「片頭痛」「偏頭痛」2通りの漢字が出てきます。
どちらの字が正しいのでしょうか。
答えは医学用語としては『片頭痛』が正しいです。
しかし、実はここで矛盾が生じているのです。片頭痛は「片側に起きる頭痛とは限らない」のです。つまり頭痛が両側に起きているから緊張型頭痛とは限らないのです。

片頭痛の有病率と経済的損失

片頭痛は日本で何人くらいいるの?(日本における片頭痛の有病率)

日本では15歳以上を対象とした片頭痛の有病率は約8.4%、約840万人の片頭痛の患者さんがいると言われています。男性は3.6%、女性は男性の3倍の12.9%と女性に多く見られる病気です。特に20代から40代女性に多く、その後加齢に伴い有病率は低くなります。未成年における有病率は高校生9.8%、中学生4.8〜5.0%、小学生3.5%と年齢が上がるにつれ、徐々に増えていきます。

世界各国の片頭痛の有病率

世界各国における有病率は様々で、
タイ29.1%
ドイツ27.5%
スウェーデン13.2%
フランス12.1%
台湾9.7%
マレーシア9.0%
中国8.3〜14.3%
韓国6.1%
調査方法などにもよりますが、生活様式や地域性によってかなりの違いがあるようです。
日本の中でも、片頭痛の分布が縄文人の分布と似ているというデータがあり、片頭痛のルーツは縄文人ではないかと考えられています。

片頭痛による経済的損失(アブセンティーズムとプレゼンティーズム)

片頭痛は男女共に生産年齢にピークがあり、日本における経済的損失も大きくなっています。片頭痛によるアブセンティーズム(欠勤や休業)以上にプレゼンティーズム(出勤はしているけれど能力が低下している)がより深刻な問題となっています。片頭痛のプレゼンティーズムによる我が国の経済的損失は年間3600億円〜2兆3000億円とも推計されています。片頭痛は治療・予防が可能な病気であるため、医療機関での診断・治療が推奨されていますが、日本ではまだ予防可能な病気であるという認識がない方も多く、頭痛の方を見かけたらぜひ頭痛外来の存在をお伝えいただけたらと思います。

片頭痛のメカニズム

片頭痛のメカニズムにはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が重要

片頭痛のメカニズムはまだはっきりと確定していません。神経説・血管説・そして三叉神経血管説が広く知られています。現在では、脳の硬膜の血管に神経を起源とする炎症が起こり、血管が拡張するためへ片頭痛が起こると考えられています。
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)は片頭痛の発作時に血中濃度が高いことや、片頭痛の患者さんに投与することで片頭痛が誘発されることがわかっています。三叉神経に発現しているため、これを治療のターゲットとしたCGRP 関連薬剤(抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体、CGRP受容体拮抗薬)が開発され、治療薬として用いられています。

片頭痛の特徴と悪くしてしまう原因

片頭痛はどのような特徴のある頭痛?

片頭痛の特徴として

  • ズキンズキンと脈打つように痛む
  • 肩こりを伴う
  • 吐き気を伴う
  • 数年前から何度も起きている
  • ストレスから解放された週末や生理の時に起きる
  • 頭痛が起きているときは光と音に過敏になる
  • 頭痛は動くと悪くなり、じっとしている方が楽
  • 天候に左右されて気圧の低下などにより起こりやすい
  • 遺伝が関与していることがある
  • 治療をしないで放置することにより、年齢を重ねるとめまい・耳鳴りに移行することがある

などが挙げられます。

片頭痛は何で悪くなる頭痛?(片頭痛の誘発因子・増悪因子)

片頭痛が悪くなる原因として以下のものが挙げられます。
ただし、必ずしも皆さんがこれら全てが原因で悪くなっているわけではなく、患者さんそれぞれが頭痛ダイアリーをつけて自分の片頭痛を悪くしている原因を知ることが大切です。

  • 精神的因子:ストレス、ストレスからの解放、疲れ、睡眠不足、寝過ぎ
  • 内因性因子:月経周期
  • 環境因子:天候の変化(温度差・気圧差)、におい、音、光
  • ライフスタイル因子:運動、食事を抜く、静的活動、旅行
  • 食事性因子:空腹、脱水、アルコール(特に赤ワイン)、特定の食品

その他にも、カフェイン、経口避妊薬、過食、食品添加物などが報告されています。

片頭痛の前兆について

片頭痛の前兆にはどのようなものがあるか

日本では15歳以上を対象とした片頭痛の有病率は約8.4%ですが、そのうち前兆のない片頭痛が5.8%、前兆のある片頭痛が2.6%というデータがあります。前兆とは片頭痛の起こる約60分以内現れ、通常5〜60分続く特殊な神経の症状のことを指します。典型的なものは目に見える症状(視覚症状)で、片頭痛の前兆の90%以上が視覚症状と言われています。これは「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれる症状で、ジグザグの光が現れ徐々に広がります。前兆は必ず消えますが、頭痛を伴わないこともあるため、他の視野障害や一過性黒内障という血管が狭くなること(閉塞)によって怒る症状と区別することが必要です。前兆には視覚症状のほか、片側のしびれなどの感覚症状、珍しいものでは失語(言葉がうまく話せなくなる)などがあります。

片頭痛の前兆と予兆は別物

片頭痛の「前兆」と「予兆」という言葉ですが、医療従事者の中でさえも間違えて使っている方がいらっいます。
「前兆」は先ほどお話したジグザグやキラキラとした光や線が視野に見える「閃輝暗点 (せんきあんてん」」でした。
では「予兆」とはなんでしょうか。予兆とは片頭痛発作の前に現れる体調の変化全てです。焦る感じ(焦燥感しょうそうかん)や眠気が強く出たり、光をまぶしく感じる、音がうるさく感じる、肩や首のこり、食欲低下または増進、疲労感など様々な症状があります。片頭痛発作の2日前くらいから続くこともあります。
「前兆」という言葉が大切になるのは、低容量ピルの処方に関することでしょう。
前兆を伴う片頭痛の場合、脳梗塞のリスクが2倍ほどあり、さらに血栓症の合併症がある場合に、低容量ピルを内服すると脳梗塞のリスクはさらに高くなるというデータがあります。
さらに、前兆のある片頭痛+喫煙+低容量ピルで脳梗塞のリスクは10倍になるという報告もあります。一方、前兆を伴わない片頭痛の場合には低容量ピル内服が可能とされています。

Etminan et al.BMJ:330.63,2005
Schürks et al.BMJ:339.b3914,2009
Spector et al.AM J Med.123:612-24,2010

「前兆」と「予兆」よく似た言葉で、間違えて使っている方もいらっしゃいますが、低容量ピルの処方を希望する時には言葉を正しく理解して婦人科の先生に伝えていただくことが大切です。

片頭痛の診断について

大切なのは「片頭痛の要素の有無」

片頭痛と緊張型頭痛もしくはその混合型の方が多いとお話したのですが、重要なのは「片頭痛の要素があるかないか」です。
なぜなら、片頭痛の要素は治療に反応しやすく、はじめに減らしやすい痛みだからです。

片頭痛を簡単にチェックできる片頭痛チェッカー(片頭痛スクリーナー)

簡単にできる片頭痛スクリーナーをご紹介します。

日本頭痛学会誌2015;42(1):134−143で竹島多賀夫先生がご紹介してくださっているものです。

この3ヶ月にあった頭痛に関する、4つの質問に答えてください。

  1. 歩行や階段の昇降など日常的な動作によって頭痛がひどくなることや、動くよりじっとしている方が楽だったことはどれくらいありましたか。
    □なかった □まれ □ときどき □半分以上
  2. 頭痛に伴って吐き気がしたり、胃がムカムカすることがどれくらいありましたか。
    □なかった □まれ □ときどき □半分以上
  3. 頭痛に伴って、普段は気にならない程度の光がまぶしく感じるとこがどれくらいありましたか。
    □なかった □まれ □ときどき □半分以上
  4. 頭痛に伴って、臭いがいやだと感じることがどれくらいありましたか。
    □なかった □まれ □ときどき □半分以上

結果判定です。4つの質問のうち2つ以上で「ときどき」または「半分以上」と答えた場合、片頭痛の可能性が高いと言えます。片頭痛は治療に反応しやすく、予防が比較的しやすい病気です。外来受診をご検討ください。

慢性片頭痛と緊張型頭痛はまぎらわしい

「慢性片頭痛」と呼ばれる片頭痛の痛みが慢性化した状態では、最初はズキンズキンと脈打つような頭痛だったのが締め付けられるような頭痛になり、緊張型頭痛とまぎらわしい症状をきたすようになります。また、片頭痛の痛みに対し、鎮痛薬を毎日のように飲んでしまう「薬物使用過多による頭痛」も元々の片頭痛の特徴がわかりにくくなります。頭痛の詳しい診断は、詳しい問診と画像診断などを行った上、頭痛外来で行いますのでご相談ください。

片頭痛の治療について

片頭痛は鎮痛薬の飲み過ぎになる前に受診しましょう

はじめのうちには市販の鎮痛薬でも一時的には痛みが治るため、頭痛外来を受診なさらないまま我慢している方もいらっしゃいますが、中には市販薬を常用しているうちに知らず知らずのうちに薬剤の使用過多による頭痛と呼ばれる病気を併発していることもあります。片頭痛は痛みも強く、鎮痛薬のみでは対処しきれずついつい鎮痛薬の量が増えてしまい、薬剤の使用過多による頭痛を起こしやすい頭痛です。片頭痛は予防が可能な疾患ですので、自己判断で鎮痛薬の量が増える前に早めに受診をしましょう。

痛みを和らげる治療─急性期治療

片頭痛治療は大きく分けて急性期に痛みを和らげる急性期治療と片頭痛をできるだけ起こさないようにする予防治療に分けられます。

  お薬による治療 セルフケア
片頭痛発作時に
痛みを和らげる
【急性期治療】
  • トリプタン系薬剤
  • NSDIDs
  • アセトアミノフェン
    など
  • 部屋の照明を暗くする
  • 安静にする
  • 頭を冷やす
    など
片頭痛発作を
できるだけ起こさない
ようにする
【予防療法】
光、音、温度変化、寝不足、寝すぎ、空腹などを避ける
  • NSAIDs(エヌセイズ):非ステロイド系抗炎症薬
  • CGRP(シージーアールピー):カルシトニン遺伝子関連ペプチド

痛みを和らげるための急性期治療で一番代表的なのは「トリプタン系薬剤」です。トリプタン製剤にもいくつか種類があり、頭痛外来ではその方の片頭痛の性状に応じて処方いたします。効きが悪い場合、他に選択肢がありますので、市販の鎮痛薬を自己判断で追加したり、 外来を中断したりせず、ぜひご相談ください。
表の他にも、急性期に2022年以降新たに使用できるようになった選択的セロトニン受容体作動薬(ラスミジタンコハク酸塩 商品名レイボー錠)などがあります。

痛くならないようにする治療─予防治療

長い間、片頭痛の予防薬はカルシウム拮抗薬、β遮断薬、抗てんかん薬など本来他の疾患に使われる内服薬を片頭痛の予防薬として代用していました。
しかし、2021年から片頭痛予防の注射として、CGRP関連製剤の3剤が使用できるようになりました。CGRPそのものにくっつき、CGRPを無力化する抗CGRP抗体(商品名エムガルティ、アジョビ)と、CGRPの受容体をふさいでしまい作用しないようにする抗CGRP受容体抗体(商品名アイモビーク)です。いずれも保険適応ですが、新薬なので高額な治療です。
頭痛の性状や、回数、状況に応じて、期間限定で使用することもできますので(3ヶ月以上は継続することが推奨されます)ご相談ください。
また、医療費の自己負担が一定額を超えた場合に、付加給付制度がある健康保険方は超えた分が還元されます。
予防薬として漢方薬も使うことがありますので、ご相談ください。

患者さんによって目指すゴールは様々

急性期治療と予防治療は同時進行です。頭痛の痛みを取りながら予防内服や注射薬で予防を進め、最終的には予防により「頭痛に振り回されない生活」を目指していきます。しかし、個々の患者さんにより頭痛の性状や患者さんの背景、求めるゴールは様々です。お一人お一人と相談して目指すゴールを決めながら、少しでも痛みのない生活を送るお手伝いをいたします。急性期治療薬や内服や注射による予防治療は、効果判定をしてその方に合わせて検討の上、調整していきますので、「痛みが思ったほど取れない」「これは副作用ではないか」などご心配なことがありましたら、必ず遠慮せずに外来でお申し付けください。

片頭痛は放置せず治療を

最後に、片頭痛はもともと脳の過興奮・感受性が高まっている状態です。
片頭痛に対して長年、適切な治療をせず、放置すると加齢に伴い片頭痛自体は軽快しても、難治性の浮動性めまい、頭痛、頭重感、耳鳴りなどを発症することがあります。また、片頭痛は脳梗塞やアルツハイマー病などの認知症のリスクとなるというデータも出てきています。頭痛外来での治療をお勧めします。

 

文責 片桐彰久 Katagiri Akihisa M.D.,Ph.D
脳神経外科専門医・指導医

日本頭痛学会・脳卒中学会・脳血管内治療学会・日本臨床高気圧酸素学会など 多くの学会の専門医・指導医を持つ。
妻と息子が片頭痛持ちであったことから頭痛診療を学び、板橋中央総合病院で頭痛外来を開設。片頭痛予防の抗CGRP製剤は区西北部医療圏で1番の使用経験を持つ。2023年に3つの診療科が協力して頭痛診療をするお茶の水頭痛めまいクリニックを開設。

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