屈折異常(近視・乱視・老眼等)
目に入ってくる光が、ピッタリと網膜上に像を結ぶ状態を「正視(せいし)」といいます。
物体がはっきりと良く見える状態です。正視以外の状態を屈折異常といい、これには近視、遠視、乱視があります。
近視
近視とは
近視とは近くのものがよく見えて、遠くが見えにくい状態です。
ものを見るときには、外から入ってきた光が角膜(かくまく)や水晶体(すいしょうたい)で屈折し、ピッタリ網膜の上にピントが合うことにより、ものがはっきりと見えます。近視では、網膜より前方に光の線による像ができてしまいます。
近視のメカニズム
主に目の奥行き(眼軸長がんじくちょう)が長いことによると考えられています。
角膜や水晶体の影響は少ないと思われます。
近視の強さによる分類
近視の度数はジオプトリー(D)という単位で表されます。
メガネの度数により大きく3つに分けられます。
- −0.5Dから−3.0D未満・・・弱い近視
- −3.25Dから−6.0D未満・・・中等度の近視
- −6.0D以上・・・強度近視
近視の頻度
日本では近視はどのくらいの頻度?(日本における近視の有病率)
日本では、文部科学省学校保健統計調査報告書において、裸眼(らがん:メガネやコンタクトをつけない状態)での視力が0.3未満の割合が調べられています。1979年と2010年を比較すると、小学2.7%→7.6%、中学生13.1%→22.3%、高校生26. 3%→25.9%と小学生で 3倍、中学生で1.7倍に増えています。近年の、特に低年齢での近視の割合の増加は、近距離での活動や、スマートフォン、デジタルデバイスの使用が増え、遠くを見る機会が減っていることが要因の一つとされています。
成人ではどうでしょうか。日本では多治見市で大きな研究が行われていますが、-0.50D未満の軽度の近視は全体の41.8%に、-5.0D未満の近視は8.2%にみられました。
近視の治療
近視の治療方法には以下のものがあります。
- メガネ:メガネにより外から目に入る光の屈折を補正し、網膜上にピッタリとピントを合わせることで、遠くのものをはっきりと見ることができます。
- コンタクトレンズ:直接目に装着すること、メガネと同様に光の屈折を補正します。特殊なコンタクトレンズとして就寝時につけて日中を裸眼(らがん)で過ごすことができるオルソケラトロジーがあります。
- 屈折矯正手術:現在日本の国内で実施されているものは、レーシック(LASIK)とICL(眼内コンタクトレンズ)の大きく分けて2種類です。
頭痛の患者様は、屈折矯正手術による過矯正や、年齢を重ねて出てくる老眼によって、かえって頭痛が悪くなってしまうことが多く、当院では屈折矯正手術はおすすめしておりません。一度ご相談ください。
近視の進行抑制治療
子どもの近視の増加と近視の重症化が近年、問題となっており、進行抑制治療が検討されています。その中で、近視進行抑制のエビデンスが出ているものをご紹介いたします。
低濃度アトロピン点眼による進行予防
1日1回寝る前に点眼を行う治療で、最も簡単に行えるので、広く行われている治療です。アトロピン点眼は、瞳孔を拡張させる作用を持ち、近視進行を抑制する効果があることがわかっています。通常、子どもの斜視や弱斜の診断や治療によく用いられています。しかし、通常診療に用いられる濃度では、近くを見た時のぼやけや眩しさが長く続くため、日常的に使うことはできませんでした。そこで、100倍に薄められた0.01%を用い、シンガポールで研究が行われましたが、何も行わない場合に比べて、60%程度の近視進行抑制効果があること、中止後にもリバウンドで近視が進むことがないことが報告されました。
点眼薬は輸入品となり、自由診療での治療となります。
当院でおこなっている低濃度アトロピン点眼治療についてはこちら
オルソケラトロジーによる進行予防
オルソケラトロジーはハードコンタクトレンズを寝るときに装着して、一時的に角膜の形状を平らにすることで、日中はメガネやコンタクトなしで、良好な裸眼(らがん)視力を得られる方法です。
強い近視の目では、眼軸(目の奥行き)が伸びて、眼球がラグビーボール状になりますが、オルソケラトロジーでは、眼軸が伸びるのを平均30から60%抑制することが示されています。大人がコンタクトの出し入れや洗浄を管理することができるので、小学校低学年くらいから使用することができ、低年齢で確実に近視進行抑制効果を得たいという場合に選択されることが多いです。低濃度アトロピン点眼治療と併用することができます。
自由診療のため、メガネと比較すると初期に費用がかさみますが、使い捨ての1dayソフトコンタクトレンズを毎日使用するのと同程度の費用です。
患者様は適切な処方や管理に基づいて使用することが求められ、適切な管理を怠ると角膜感染症など、重篤な合併症を起こすことがあります。
オルソケラトロジーについてはこちら
多焦点ソフトコンタクトレンズによる近視進行予防
多焦点ソフトコンタクトレンズは、老視(老眼)矯正のための遠近両用コンタクトレンズを用います。遠くを見るための球面度数に、近用の度数が付加されたレンズを装着することにより網膜に結ぶ光の像の一部を網膜より手前に合わせて、眼軸(目の奥行き)が伸びることを抑制します。海外では子供用の多焦点ソフトコンタクトレンズを近視進行抑制のために開発し、有効性が示されています。
オルソケラトロジーとは異なり、日中に装用するため、自分で管理のできる比較的年齢の高い小児に適応があります。
自由診療で、通常の近視のみのソフトコンタクトレンズと比較し価格が高価です。
レッドライト治療法
2014年に中国において650nmの赤色光が、眼軸延長を抑制することが発見されました。
2021年アメリカ眼科学会雑誌に発表されて以来、世界各地で調査が行われています。
この治療で用いられる赤色光は、現時点では副作用はないと言われています。現在日本でも臨床研究が行われており、結果が待たれます。
文責 片桐真樹子 Katagiri Makiko M.D.,Ph.D
- 日本眼科学会認定 眼科専門医
- アイフレイルアドバイスドクター
- 健康気象アドバイザー 日本頭痛学会
自らも片頭痛持ちである経験から頭痛診療を学び、頭痛と眼科疾患との関連を研究。2023年3つの診療科が協力して頭痛診療をするお茶の水頭痛めまいクリニック副院長就任。