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めまい

「めまい」は身体の安定感が失われたという自覚的な症状を総称する言葉です。
回転性めまい、浮動性めまい、循環不全にともなうめまい感などがあります。
めまいを起こす内耳・聴神経・脳・循環器のさまざまな病気について解説します。
(お茶の水頭痛めまいクリニック 耳鼻科 熊川孝三)

1.メニエール病

めまいの中でも最も多い疾患の一つです。
片頭痛の方にはそうでない方よりも多く認められるという報告があります。

メニエール病の症状

耳鳴りを伴い、低音の聞こえが悪くなる病気です。
患者さんは、むしろ耳が詰まったような感じ(耳閉感)や耳鳴り、男性の太い声が割れて不愉快に聞こえる、などの症状として捉えられることが多いようです。
同じ耳で繰り返すこと、日によって変動すること、多少、時間が経っても治りやすい点が突発性難聴と異なります。
めまいは典型的な場合には周りが回転する感じのめまいであることが多いのですが、景色が左右に流れる場合や、フラフラ感があることもあります。

メニエール病を悪くする原因とは?

主な原因は3つ、ストレス、睡眠不足そして低気圧です。
ストレスが原因で内耳の血管が収縮し、内耳のリンパ液が吸収される部位がうまく機能しなくなり、図の右のように、内耳にリンパ液水腫(内耳がむくんだ状態)が起こり、内耳の低音域を担当する聴細胞の振動が悪くなり、この症状が現れると考えられます。

低気圧も内耳に影響を与えます。梅雨時や台風が近づくと発症しやすくなり、気圧病と考えられています。
また建物の中でも、気圧は10m上がるごとに1hpa(ヘクトパスカル)低下します。
例えばマンションの25階だと、高さはおよそ100メートルで、気圧が10hpa下がる計算になります。
地上との往復が頻回であれば、内耳に負荷を与えうる気圧差の変化です。
私自身の統計でも、14階以上に自宅やオフィスがあり、長い時間過ごす方にメニエール病が多い傾向があります。

(めまいイラストレイテッド、日研化学株式会社発行より引用)

メニエール病と低音障害型感音難聴の違いはなに?

両者の病態は基本的に同じです。内耳のリンパ液水腫が内耳の蝸牛(かぎゅう:カタツムリのようにうずを巻いている部分)にだけある場合は難聴、耳鳴りだけの場合が多く、この場合を低音障害型感音難聴と呼びます。蝸牛だけに限らず、三半規管や内耳全体へ及ぶと、めまいを伴い、この場合をメニエール病と言います。
低音障害型感音難聴の20%の方がメニエール病に移行すると言われています。
この病気は真面目で几帳面、頑張り屋で無理を重ねてしまう、ストレスを発散できずに抱え込む方に多くみられます。

メニエール病の治療

薬物療法では、利尿剤であるイソバイド液、神経の回復を助けるステロイド剤、ビタミンB12剤、ATP製剤の投与が一般的です。
その他に上記の治療でも改善しない場合には漢方治療を行いますが、数種類あるので、その方に合った漢方の選択が大事です。

イソバイド液は味が独特で美味しくないために、長期に服用できない方も多くいらっしゃいます。
また、ステロイドは即効性があるのですが、この疾患は反復することが特徴ですので副作用が心配となります。
そこで当科では、それに代わるものとして漢方治療も行います。
またストレスに対する心理的な支援も必要に応じて行います。

また、2019年に保険適応となった治療法として、中耳加圧療法があります。
中耳加圧療法は、耳の穴から鼓膜に向かって強弱をつけた空気圧力を送り、耳小骨を介して内耳に貯まったリンパ液を調整します。クリニックより器械をレンタルし、御自分で1日2回、3分程度施行します。月に1回診察を受けていただき、聴力や眼振、めまいの有無を確認します。
メニエール病の診断がついている方で、生活指導や薬物療法で症状が落ち着かず、手術を検討しなければならないような方に適応となります。3割負担の患者様だと、月額6000円程度かかります。
保存治療の効果が認められず、めまいと難聴が進行する場合は、ステロイドの鼓室内注入療法、さらには内リンパ嚢シャント手術を行う場合もあります。内リンパ嚢シャント手術は内耳のそばにある内リンパ嚢まで骨を削り、袋に切開を加え、貯留した内リンパ液を排出させる手術です。かなり難しい技術を要する手術であり、最近では施行できる施設が減っていますが、メニエール病にはとても有効な方法です。私、熊川は関連病院にて、この手術を行っていますので、診断の上、手術が必要な場合には当クリニックからご紹介させていただきます。

メニエール病の予防

メニエール病はストレスなどで誰にでも起こりうるもの、そして治療によって良くなる病気です。
病気を怖がらずに、先ずは安心し、良く笑い、よく運動し、良く寝ることが大事です。
通常、病気の時にお酒なんて・・・と驚かれるかもしれませんが、長い経験から言いますが、お酒、特にビールは利尿作用があり、少量であれば飲んでも構いません。
横になることで、内耳の血流が増えますので、ゆっくりと身体と精神を休めることも重要です。
たくさん有酸素運動をして、爆睡すれば翌日には治ってしまう方もいます。

何よりストレスを無くし、ためこまないことですが、現代社会に生きながらそれは難しいことです。
ストレスを発散できるような、その人なりのリラクゼーションの方法などを見出していくことが大事です。
怖がらせる医師ではなく、心理療法的な指導も行ってくれる優しい医師の選択が重要です。

2.良性発作性頭位めまい症

良性発作性頭位めまい症の症状

起き上がる際や、寝返り、上や下を向くなど頭の位置を変えた時に、瞬間的にぐるぐると目が回ります。
めまいは、数秒~数十秒で、ひどいときは吐き気や嘔吐を伴うこともあります。

良性発作性頭位めまい症の原因

良性発作性頭位めまい症は、内耳の中にある耳石(じせき)が、何らかの原因(加齢や頭の外傷など)で耳石器から剥がれ、それが三半規管の中に入り、頭位の変化にともなって動き、めまいを生じます。
診断名を短くするために、耳石症とも呼ばれます。

(めまいイラストレイテッド、日研化学株式会社発行より引用)

良性発作性頭位めまい症とメニエール病との違い

めまいの持続時間についても1分以内のことが多く、メニエール病より短いことは異なります。
また、メニエール病ではめまい発作に伴って聴覚症状(耳鳴、難聴、耳閉感など)の変動がみられるのに対して本疾患ではめまいに伴う聴覚症状がみられない点が大きく異なります。

良性発作性頭位めまい症の治療

浮遊耳石置換法とは、この外れて浮いている耳石を半規管外に出す方法です。
赤外線CCD眼鏡によって患者さんの目の動きを観察しながら、頭をゆっくりと動かし、耳石を元に戻します。

1回の治療でめまいが改善する方もいますが、平均2~3回の治療で改善します。
左右3つずつの半規管があり、どこに耳石があるかを正確に診断し、異なった方法で理学療法を行う必要がありますので、専門医の受診をお勧めします。

良性発作性頭位めまい症の予防

中高年で骨粗しょう症がある方では、その治療をお勧めします。
良性発作性頭位めまい症は女性に多く、閉経すると、女性ホルモンの分泌が低下してカルシウムの代謝に影響し、耳石が剥がれやすくなるのではないかと言われています。

3.前庭神経炎

突然発症し、強い回転性めまいが数日間~数か月持続します。
時に嘔吐も伴います。
その際、蝸牛症状(耳鳴、難聴など)を伴わないのが特徴で、メニエール病とは異なります。
また、前庭神経炎のめまい発作は通常1回のことが多く、繰り返すめまいを特徴とするメニエール病とは区別できます。

4.脳卒中

めまいに加えて、顔や手足のしびれや麻痺がある、ろれつが回らない、物が二重に見える、激しい頭痛がある、などの場合は脳の問題が考えられます。
すぐに脳の画像診断が必要です。

脳卒中によるめまいの症状や程度は梗塞や出血が生じた場所によって異なります。
たとえば脳幹の前庭神経核という、平衡感覚が集まる部分の障害では強い回転性のめまい、嘔吐がおこりますし、大脳皮質の障害では、しびれや麻痺が主症状で、揺れるような、比較的軽度のめまいが認められます。

5.起立性低血圧・不整脈

若い人や高齢者で血圧を一定に保つ機能が衰えていると、急に立ち上がると血圧が下がり、脳の血液循環量が低下するとめまいがおこりやすくなります。
座った位置から立ち上がったときに最高血圧が20mmHg以上低下するものを言います。
若い人では急激に血圧が下がると目の前が暗くなり、顔が青ざめ、冷や汗が出て倒れてしまうことがありますが、高齢者では反応自体が弱くあらわれ、血圧が少し下がっただけでもめまいをおこしやすくなります。
不整脈でも脳へ行く血流量が減少し、失神様めまいを起こすことがあります。

6.聴神経腫瘍

内耳から出て脳幹に入る蝸牛神経や前庭神経に腫瘍が出来て、難聴、耳鳴り、めまいが生じることがあります。
実はそれほどまれな病気ではなく、治りにくく、耳鳴りが強い突発性難聴の方をMRI検査で調べると約5%で見つかるともいわれています。

(めまいイラストレイテッド、日研化学株式会社発行より引用)

7.PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)

PPPDは新しい疾患

慢性めまいの原因として、2017年に定義された新しい疾患概念です。

PPPDの症状

急なめまいを発症後、急性期症状は改善したにも関わらず、雲の上を歩いているような状態が、長期にわたってみられる病気です。
慢性めまいの約40%を占めると言われています。
3カ月以上続く浮動感、不安定感、非回転性めまいが主な症状です。

PPPDを悪くする原因(PPPDを誘発する動き)

これらの症状が、立ったり、歩いたり、体を動かしたり、動かされたりすること(エレベーター、エスカレーター、電車、バスへの乗車など)、複雑な模様(色合いや凹凸)や激しい動きのある映像を見ることにより悪化します。
例えば、乗り物から見える景色の流れ、大型店舗の陳列棚、映画、パソコンのスクロール画面、ドローン撮像動画を見ることなどにより悪化します。

PPPDの原因

平衡感覚は耳と目(視覚)、体(足の裏からの体性感覚)からの3つの情報を小脳で統合することにより司られています。
PPPDは、先行するめまいが治った後も、目と体からの2つの情報伝達の乱れが残ることにより起こると考えられています。
耳には何も異常は無いにもかかわらず、めまいの自覚症状だけ続いていると考えられています。

PPPDの治療

うつや不安症などを合併する方には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬がめまいの自覚症状を改善させることが分かってきました。
また前庭リハビリテーションがPPPDに有効であるとの報告もあります。
長時間のパソコンやスマホの視聴は控えるなど、生活習慣を見直すことも大切です。

文責 熊川孝三 Kumakawa Kozo M.D.,Ph.D.
耳鼻咽喉科専門医・指導医

日本耳鼻咽喉科学会認定専門医
日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医
昭和大学医学部耳鼻咽喉科客員教授
日本演奏芸術医学研究会理事

虎の門病院耳鼻咽喉科にて人工内耳・耳硬化症をはじめとする数多くの手術を施行。
また日本初の聴性脳幹インプラントに成功。
虎の門病院耳鼻咽喉科部長・聴覚センター長を退任後、現在、赤坂虎の門クリニック耳鼻科部長。
2023年3つの診療科が協力して頭痛診療をするお茶の水頭痛めまいクリニック顧問に就任。

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